info
Global Languages:中文 | English | 日本语

請求項の保護範囲の確定に対する発明の概念の影響 「ミシン」の発明特許無効事件の分析

請求項の保護範囲は特許権者と大衆との利益衡量に関係している。権利確定の段階であろうと、侵害の段階であろうと、請求項の保護範囲に対する解釈はできるだけ一致するようにすべきであるので、権利確定の段階における請求項の保護範囲に対する確定は侵害判定に対して非常に影響が大きい。

請求項の保護範囲の確定では文字の意味の解釈が優先であるが、権利確定の段階では、特許出願が既に権利を取得しており、補正の仕方に厳しい制限があるので、特許請求の範囲に記載された文字の内容は相対的に固定された状態にある。しかし、言葉、文字自体の限界性と特許出願の記載の瑕疵等の原因により、文字の意味の解釈だけでは請求項の保護範囲の正確な限定を確保することは難しいものであり、請求項の解釈が必要になってくる。請求項を解釈する主体は当業者であるので、請求項の保護範囲を確定する際には、当業者が自身の知識と能力を合わせて特許出願書類を全体的に把握し、技術的視点で分析し、特許の技術の本質と従来技術に対する貢献とを正しく把握するように努めるべきである。

発明の概念は、出願書類自体に記載された背景技術と、客観的に成される発明の概要と基づいて確認される技術改良の構想であり、出願書類自体の記載に基づいて確認可能な、従来技術に対して貢献がある内容であり、1件の発明創造の技術の本質と技術的貢献とを把握することが決め手となり、したがって、発明の概念の理解は請求項の保護範囲の確定に対して非常に大きな役割と果たす。1件の発明創造について、技術的課題は発明創造の原因であり、技術的効果は発明創造の結果であり、技術的手段は技術的課題を解決して技術的効果を実現する具体的な過程である。したがって、従来技術に存在する技術的課題と、その技術的課題の解決のために講じる技術的手段と、その技術的手段により実現される技術的効果との3つの内容を十分客観的に理解してこそ、客観的、全体的且つ全面的に発明創造の一部始終を理解し、発明創造の技術の本質と技術的貢献とを正確に把握することができる。その上で、当業者は特許請求の範囲で限定された実質的な保護範囲を正確に把握することができる。 以下、発明の概念が請求項の保護範囲をどのように確定するかについて、具体的な事例を挙げて分析、検討する。

係争特許は、名称が「ミシン」であり、係争特許を侵害したとして特許権者JUKIが浙江中縫重工ミシン有限公司(CHNKI Precision Sewing Machine Co., Ltd.)を訴えたものである。被疑侵害品が係争特許の請求項の保護範囲に入るか否かを判断するポイントは、請求項1の「空走区間」という技術用語の理解にある。この用語について、特許権者の理解によると被疑侵害品は当該特許の請求項の保護範囲に入り、侵害が成立し、被疑侵害者の理解によると被疑侵害品の製造及び販売行為は侵害が成立しないことになる。当該発明特許について、浙江中縫重工ミシン有限公司は直ちに国家知識産権局専利復審委員会(審判部)(以下、「専利復審委員会」という)に無効審判を請求した。その理由として、請求項1における「空走区間」という用語に対する限定が請求項1を不明瞭にしており、特許法実施細則第20条第1項及び特許法第26条第4項の規定を満たしていないことを挙げた。専利復審委員会は、明細書及び図面を参照して上述の技術用語の意味を確定する第20220号審決を出して、係争特許の有効を維持した。

この事件は、「空走区間」という技術用語の意味をどのように理解するかが焦点となった。請求項1における「空走区間」という用語に対する限定は、「前記駆動カム部材と糸切り連結部材と押え上げ連結部材は、糸切り機構により糸切りを終了した後連続して押え上げ機構により押えを上昇させる場合に、糸切り終了時から押えの上昇の開始までの間、駆動モータにより駆動カム部材が作動しても前記糸切り機構と押え上げ機構とのいずれに対しても駆動モータの駆動力を伝達しない空走区間を設ける」というものである。請求人の主張によると、上述の特徴における「前記駆動カム部材」、「糸切り連結部材」、「押え上げ連結部材」は「設ける」の3つの並列した主語であるので、「前記駆動カム部材」、「糸切り連結部材」、「押え上げ連結部材」にはいずれも空走区間があるという3つの並列した技術的解決手段が請求項1で限定されているが、係争特許の明細書にはカム機構に空走区間があることが記載されているだけなので、請求項1は明細書を根拠としていない。また、上述の特徴における「糸切り機構により糸切りを終了した後連続して押え上げ機構により押えを上昇させる場合」と「糸切り終了時から押えの上昇の開始までの間」とは「空走区間」に対する並列の限定条件であり、前者の限定では糸切り終了後連続して押えを上げるので空走区間がないことが説明されているが、後者の限定では空走区間があることが説明されており、空走区間は糸切り終了から押えが上昇するまでの間に設けられ、したがって、両者の制限により「空走区間」の概念の説明が不明瞭になり、明細書のサポートも得られない。

まず、「空走区間」という用語は当該分野の一般の技術用語ではなく、当該分野の通常の意味があるわけではないので、文章の意味の解釈だけでは「空走区間」の正確な意味を確定することができない。次に、明細書でもこの用語を専門的に解釈又は定義しておらず、この場合、「空走区間」という用語の意味を正確に把握して請求項の保護範囲を正確に確定するには、明細書の全体的な内容によって理解する必要がある。そこで、明細書に開示の内容を正確に理解するには、発明の概念の把握が欠かせない。

係争特許の背景技術には次のように記載されている。従来、縫製後に糸を切断するための糸切り機構と、布押えを上昇させる押え上げ機構と、これら両機構をそれぞれ駆動する駆動モータとを備え、それぞれの駆動モータを制御することによって糸切り機構と押え上げ機構とをそれぞれ制御するミシンが知られている。実際の作業では、糸切りと押え上げとの2つの連続した動作を実施する際、確実に糸切りを終了した後に布押えを上昇させるために、糸切り機構の停止後、押え上げ機構の動作開始までの間に十分なタイムラグが必要となるが、このようなタイムラグを実現するために、従来技術は、この2つの機構を駆動する駆動モータの加減速をそれぞれ制御することによって実現するものであるが、加減速の過程で駆動モータに負荷がかかってしまい、これが駆動モータの容量に対する要求を引き上げることになるので、ミシンのコストが高くなる。

従来技術におけるこのような技術的課題を解決するため、係争特許には、モータにより駆動される駆動カム部材が設けられ、駆動カム部材には、糸切り機構の糸切りリンクに嵌合する糸切りカム部と、押え上げリンクに嵌合する押えカム部とがそれぞれ設けられており、両駆動カム部材のカム曲線によって糸切り機構及び押え上げ機構の運動をそれぞれ制御して、糸切り終了後であって押え上げ前の或る期間において、糸切りリンク及び押え上げリンクのカムに接触する制御端がいずれも、それぞれのカム曲線の円弧の区間に位置するようになっており、その際にモータが回転しても、その動力が糸切り機構と押え上げ機構とに伝達されず、それによって、タイムラグが生じるようになっている。

明細書には、上述の技術的手段が、「糸切り終了時から押えの上昇の開始までの間、モータは動作しているがいずれの機構にも駆動力が伝達しない空走区間により、糸切りが確実に終了してから押え上げの動作に移ることができ、且つ、この間モータの回転速度を落とさないで押え上げを開始することができ、モータの駆動力が十分に大きい状態のまま布押えを上げ、この点でもサイクルタイムを短縮することができる。」という技術的効果を実現していることが記載されている。


このため、係争特許の発明の概念が、モータの加減速の制御により十分なタイムラグを実現する制御方式に代えて、駆動カム部材の構造の設計によって糸切り終了から押え上げ開始までの間の「空走区間」を形成し、それによって、サイクルタイムを短縮するという目的にあることが理解される。 明細書の内容を参照して上述の発明の概念を理解すると、係争特許の解决しようとする技術的課題から、当業者は、従来技術に対する当該特許の貢献が駆動カム部材による「空走区間」の形成にあり、すなわち、請求項1における「空走区間」に対する上述の限定は、当該特許の技術的解決手段の技術的課題の解決に必要不可欠な技術的特徴であると確定することができる。したがって、いわゆる「空走区間」とは、「糸切り終了時から押え上昇開始までの間」の或る運転状態をいい、この運転状態では、糸切り終了後であって押え上げ前に十分なタイムラグが得られるように、駆動モータにより駆動されて駆動カム部材が作動しても糸切り機構と押え上げ機構とに動力が伝達されないことが、係争特許により解決される技術的課題から確定される。当業者は、当該特許の明細書及び図面を参照して、「空走区間」について唯一の合理的な解釈をすることができるので、請求項1の保護範囲は明確であり、明細書のサポートを得ることができる。

要するに、「ミシン」の事例により、請求項の或る技術用語が請求項の字面による限定からだけではその正確な意味を確定することが難しい場合には、当業者が明細書の内容を参照して発明の概念を把握し、解决しようとする技術的課題から技術的特徴の意味を全体的に判断して、請求項の保護範囲について唯一の合理的な確定をするという過程が示されただけでなく、権利確定段階の請求項の保護範囲の確定がその後の侵害判定に対して大きく影響することも十分に示された。これにより、「ミシン」の事例における請求項の保護範囲に対する理解は参考になる。

(出典:中国知的財産権情報  2017年11月16日)


 業界ニュース
 出願書式
 Uni−intel ニュース
 政策・法律等